
新NISAや特定口座(源泉徴収あり)で株式・ETF・投資信託を運用している個人投資家にとって、毎年年末から翌年2月〜3月の確定申告シーズンにかけて悩みの種となるのが「自分は確定申告をするべきなのか、それとも申告不要のまま何もしない方がいいのか」という判断です。
さらにややこしいのが、「家族の医療費控除やふるさと納税、iDeCoの控除を受けるために確定申告をする場合、特定口座の配当金や売却益も強制的に確定申告書へ入力しなければならないのか」というパズルのような組み合わせルールです。
私は2004年から22年以上投資を続け、現在は総資産1億円・年間約130万円(税引後見込み)のETF分配金を受け取りながら、毎年マイナポータル×e-Taxで確定申告を行っています。
この記事では、個人投資家が確定申告で「含めるべきもの・あえて除外(申告不要)すべきもの」をひと目で判断できる全体マトリクスと、複数の控除を組み合わせる際に陥りやすい実務上の落とし穴を整理します。
大原則:医療費控除等で確定申告しても「特定口座」は申告不要のままにできる
まず、最も多くの投資家が誤解している大原則から整理します。
「特定口座(源泉徴収あり)は原則確定申告が不要だが、もし医療費控除やふるさと納税などで確定申告書を提出する場合は、特定口座の利益や配当金もすべて一緒に申告しなければならない」と思い込んでいる方が少なくありません。
結論から言うと、これは誤りです。
特定口座(源泉徴収あり)で発生した譲渡益(売却益)や配当・分配金は、20.315%の源泉徴収によってすでに納税が完結しています。そのため、医療費控除や寄附金控除(ふるさと納税)、住宅ローン控除(1年目)、年末調整に間に合わなかったiDeCo・生命保険料控除などのために確定申告を行う場合でも、特定口座の所得は「確定申告書に一切記載しない(申告不要のまま除外する)」ことができます。
| 確定申告を行う理由・項目 | 特定口座(源泉徴収あり)の扱い | ふるさと納税(ワンストップ特例提出済)の扱い |
|---|---|---|
| 医療費控除・ふるさと納税・iDeCo等の所得控除のみを追加したい | 申告書に記載しなくてよい(申告不要を維持可能) | ワンストップ特例が無効になるため、全寄付分を必ず確定申告書に再入力する |
| 複数証券会社の特定口座間で損益通算したい・損失を3年間繰り越したい | 対象の特定口座を申告分離課税で申告書に記載する | ワンストップ特例が無効になるため、全寄付分を必ず確定申告書に再入力する |
| 米国ETF等の二重課税を「外国税額控除」で取り戻したい | 対象の配当・分配金を申告分離課税(または総合課税)で記載する | ワンストップ特例が無効になるため、全寄付分を必ず確定申告書に再入力する |
| 国内株・国内ETFの配当金を「総合課税(配当控除)」で還付請求したい | 対象の配当金を総合課税で申告書に記載する | ワンストップ特例が無効になるため、全寄付分を必ず確定申告書に再入力する |
※マイナポータル連携を使ってe-Taxで確定申告を作成する際、証券会社の特定口座年間取引報告書が自動取得の対象になっていると、クリック一つで特定口座のデータまで取り込めてしまいます。特定口座を「申告不要」のままにしたい場合は、特定口座データの取り込みチェックを外す(または取り込んだデータを削除する)点に注意が必要です。
パターン別判定マトリクス:投資家が確定申告を「やるべきケース・やめるべきケース」
では、どのような人があえて特定口座の配当金や譲渡損益を確定申告に含めるべきで、どのような人が絶対に申告不要を貫くべきなのでしょうか。
その分岐点は、「加入している健康保険の種類(会社の社会保険か、国民健康保険・後期高齢者医療制度か)」と「課税所得の水準」の2軸で決まります。
| 属性(加入健康保険) | 検討している申告内容 | 判定 | 理由・損得の仕組み |
|---|---|---|---|
| 会社員・公務員(健康保険組合・協会けんぽ) | 米国ETFの外国税額控除 | 申告を推奨 | 給与の所得税から米国源泉税(10%)を取り戻せる。社保の保険料は標準報酬月額(給与)で決まるため1円も上がらない |
| 会社員・公務員(健康保険組合・協会けんぽ) | 複数口座の損益通算・3年繰越控除 | 申告を推奨 | 源泉徴収された20.315%の税金が還付される。会社の健康保険料には影響しない(ただし家族を被扶養者に入れる際の一部健保の独自基準や児童手当等の所得制限がある場合は要確認) |
| 会社員・公務員(健康保険組合・協会けんぽ) | 国内株・国内ETFの配当控除(総合課税) | 課税所得695万円(目安)以下なら検討可 | 課税所得330万円以下なら税率が実質5%(所得税5%+住民税10%=15%)等に下がり有利。高所得層は逆に増税になるため申告不要を維持 |
| FIRE達成者・自営業・年金生活者(国民健康保険・後期高齢者医療) | 外国税額控除・配当控除・損益通算 | 原則として「申告しない(申告不要)」を推奨 | 令和6年分以降、所得税と住民税の課税方式が一致。確定申告に配当や譲渡益を含めると住民税の算定所得に加算され、翌年の国保料・介護保険料・医療費窓口負担が跳ね上がり手取りが赤字になりやすい |
| 家族の扶養に入っている人(配偶者・親など) | 特定口座の配当控除・損益通算・繰越控除 | 原則として「申告しない(申告不要)」を推奨 | 確定申告に含めると「合計所得金額(繰越控除差し引き前)」に加算され、合計所得62万円超となって家族の税法上の扶養から外れるリスクがある |
※健康保険組合によっては、被扶養者の認定基準において確定申告書の写しの提出を求める場合など運用規約が異なるため、事前の確認が必要です。
現役会社員(社会保険)とFIRE後(国民健康保険)で正解が180度変わる理由
かつて(令和5年分・2023年分の確定申告まで)は、「所得税では確定申告をして外国税額控除や配当控除の還付を受け、住民税では『申告不要』を選択して国民健康保険料の上昇を防ぐ」という裏技(異なる課税方式の選択)が可能でした。
しかし、令和4年度税制改正により、令和6年分(2024年分)の確定申告から「所得税と住民税の課税方式を一致させる」ルールが完全施行されています。
これにより、現在では以下の構造になっています。
- 現役の会社員(健康保険組合・協会けんぽ加入):確定申告で特定口座の配当を計上して住民税の所得が増えても、会社の健康保険料・厚生年金保険料は「毎月の給与(標準報酬月額)」だけで決まるため、社会保険料は1円も上がらない。したがって外国税額控除や損益通算のメリットをそのまま享受できる
- 退職後・FIRE後(国民健康保険・後期高齢者医療制度加入):確定申告で特定口座の配当や譲渡益を計上すると、そのまま住民税の所得に直結し、翌年の国民健康保険料や介護保険料(合わせて約10%前後)が10万円単位で跳ね上がる。数万円の税金還付よりも保険料増加額の方が大きくなり、トータルの手取りがマイナスになる
特定口座の配当130万円における総合課税・申告分離課税の分岐点や、外国税額控除の具体的な属性別シミュレーションについては、以下の記事で詳しく計算しています。


複数の控除を組み合わせる際の3つの実務トラップ
医療費控除、ふるさと納税、外国税額控除、損益通算などを組み合わせてe-Taxで確定申告を行う際、特に注意すべき実務上の落とし穴が3つあります。
1. ワンストップ特例の自動無効化と再入力漏れ
医療費控除や外国税額控除、損益通算などで確定申告書を提出した瞬間、その年に提出していたふるさと納税の「ワンストップ特例申請」はすべて自動的に無効になります。
確定申告を行う場合は、ワンストップ特例を出した自治体分も含めて、1年間のすべてのふるさと納税を「寄附金控除」として確定申告書に必ず再入力する必要があります。この仕組みと2026年の上限額の注意点は、以下の記事で解説しています。

2. 医療費通知データの反映タイミング(2月9日頃)より前に申告してしまう罠
マイナポータル連携を使って本人や家族の医療費控除を自動取得する場合、前年1月〜12月までの1年分の医療費通知データがマイナポータルに一括反映されるのは、原則として「毎年2月9日頃」です。
還付申告は1月1日から提出可能ですが、1月中旬や2月初旬に焦ってマイナポータル連携で確定申告書を作成・送信してしまうと、11月〜12月受診分の医療費データが抜けたまま申告してしまうことになります。マイナポータル連携で医療費控除を行う場合は、2月9日以降にデータが揃ったことを確認してから作業を始めるのが確実です。
3. 特定口座の配当を総合課税・申告分離課税で申告した際のふるさと納税上限額への影響
会社員が米国ETFの外国税額控除などのために特定口座の配当を「申告分離課税」で確定申告した場合、住民税の税率は源泉徴収時と同じ5%(配当割額控除により調整)となる一方、合計所得金額や総所得金額等が増えることで、他の控除(配偶者控除の判定所得や、医療費控除の総所得金額等5%基準など)に連鎖的な影響を与える場合があります。
e-Tax(確定申告書等作成コーナー)では、データを入力した状態で最終送信する前に「還付される金額(計算結果)」を画面上で確認できるため、「特定口座を入力した場合」と「特定口座を入力しなかった場合」の還付額の差をシミュレーション画面で比較してから判断するのが最も安全です。
私が毎年の確定申告(e-Tax)で実践している組み合わせルール
会社員として働きながら、総資産1億円・年間配当約130万円を運用し、母親を扶養している私の現在の確定申告ルールは非常にシンプルです。
- 年末調整で完結させるもの(11月)
– 私自身の基礎控除、給与所得控除
– 母親の老人扶養控除(同居老親等58万円)
– 私の口座から支払った母親の社会保険料控除、および私自身のiDeCo掛金控除(小規模企業共済等掛金控除) - 確定申告(e-Tax)で追加申請するもの(翌年2月9日以降)
– 私と母親の医療費をマイナポータルの「代理人設定」で合算した医療費控除
– 特定口座で受け取った米国ETF(VT・VYM)の分配金に対する「外国税額控除」(会社員の社会保険に加入している間は健康保険料が上がらないため、米国源泉税10%分をしっかり取り戻す) - 将来、早期退職(FIRE)して国民健康保険へ移行した後のルール
– 医療費控除など所得控除の還付申告は必要に応じて行うが、特定口座(源泉徴収あり)の配当・分配金は確定申告書から完全に除外し、「申告不要」を貫くことで国民健康保険料の跳ね上がりを防ぐ
さらに、2030年前後に向けて法整備が進んでいる「特定口座の金融所得の社会保険料算定への反映(後期高齢者医療制度での成立と国保への議論)」も見据え、毎年の新NISA枠(年360万円)を活用して特定口座から非課税口座への資産シフトを計画的に進めています。この長期防衛戦略については以下の記事で詳しくまとめています。


まとめ
個人投資家が年末調整から確定申告に向けて押さえておくべき意思決定の軸は以下の通りです。
- 医療費控除やふるさと納税、iDeCo控除のために確定申告をする場合でも、特定口座(源泉徴収あり)の株・配当は「申告不要(記載しない)」のまま維持できる
- 現役の会社員(健康保険組合・協会けんぽ加入)であれば、確定申告で外国税額控除や損益通算を行っても毎月の社会保険料は上がらないため、積極的に税還付を狙う価値がある
- 退職後・FIRE後(国民健康保険・後期高齢者医療制度加入)や被扶養者の立場である場合は、特定口座を確定申告に含めると保険料急増や扶養外れを招くため「申告不要」を徹底する
- 確定申告を行う場合は、ワンストップ特例の全件再入力と、2月9日以降のマイナポータル医療費データ反映タイミングを必ず確認する
自分の加入している健康保険と所得状況に合わせて「何を年末調整で出し、何を確定申告に含め、何を申告不要のまま隠しておくか」を整理しておくことが、投資家の手取りを最大化する最も確実な防衛術です。
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