
親が75歳を迎えて後期高齢者医療制度へ移行するタイミングで、「75歳以上の親はもう扶養に入れられないのでは?」「親を扶養に入れると、親の医療費や介護費用が跳ね上がるデメリットがあると聞いたけれど本当?」と悩む方は非常に多くいらっしゃいます。
結論から言うと、75歳になると会社の「健康保険の扶養(被扶養者)」からは自動的に外れますが、所得税や住民税を軽減する「税法上の扶養(老人扶養控除)」には年齢上限がなく、75歳以上でも要件を満たせば引き続き扶養に入れることができます。そして、多くの方が恐れている「親の医療費や介護費用が上がる」というデメリットの正体は、税法上の扶養に入れたこと自体ではなく、「現役世代の子と親が住民票上の同一世帯(特に子が世帯主)になること」で親の世帯が住民税課税世帯と判定される仕組みにあります。
この記事では、70代後半の母と同居して税制扶養に入れている私自身の実体験と制度調査に基づき、75歳以上の親に関する「3つの制度(健康保険・税金・住民票世帯)の決定的な違い」から、2026年(令和8年分)最新の節税額シミュレーション、そして同居・別居それぞれの本当のデメリットと対策までを体系的に解説します。
【結論】75歳以上の親を巡る「3つの制度」を切り分けて整理しよう
「75歳以上の親を扶養に入れると損をするのか?」という疑問を正確に解くためには、まず混同されがちな3つの制度を切り分ける必要があります。
| 制度の区分 | 75歳到達後の扱い | 子側のメリット | 親の医療費・介護費への影響 |
|---|---|---|---|
| ① 健康保険の被扶養者(社会保険) | 75歳誕生日に全員自動で脱退し「後期高齢者医療制度」へ移行 | なし(75歳以降は健康保険の扶養には入れられない) | 親自身が後期高齢者医療保険料を納付する(年金額18万円以上は原則年金天引き) |
| ② 税法上の扶養親族(老人扶養控除) | 75歳以上でも年齢上限なしで適用可能(合計所得金額62万円以下等) | 所得税・住民税が年間約7万〜18万円軽減される | 別居のまま税法上の扶養に入れても、後期高齢者医療保険料や介護保険料は原則上がらない(※自治体独自福祉は要確認) |
| ③ 住民票上の「同一世帯」(子が世帯主) | 同居して住民票を1つの世帯にまとめた場合に該当 | 同居老親等として控除額が上乗せ(所得税58万円・住民税45万円) | 親の世帯が「住民税課税世帯」となり、医療保険料の軽減措置や介護費用の負担限度額(補足給付等)に影響する |
つまり、「75歳になったら扶養から外れる」というのは①健康保険の話であり、「親の医療・介護負担が増える」というのは主に③住民票を同一世帯にした場合の話です。②税法上の扶養(老人扶養控除)そのものは、75歳以降も家計を守る強力な制度として機能し続けます。
なお、年末調整での具体的な記入方法や70歳以上の親を扶養に入れる全体手順については、以下の記事で詳しく解説しています。

75歳以上の親を「税法上の扶養(老人扶養控除)」に入れる要件と節税額
まずは、75歳以上の親を税法上の扶養に入れるための条件(2026年・令和8年分以降)と、それによって子の税金がいくら安くなるのかを確認しましょう。
対象となる親の所得要件(令和8年分:年金収入172万円以下)
税制改正による基礎控除等の引き上げに伴い、扶養親族の対象となる「合計所得金額」の上限は、従来の48万円以下から「58万円以下(2026年・令和8年分以降は62万円以下)」へ緩和されています。
親の収入が公的年金(老齢基礎年金・老齢厚生年金・遺族年金等)のみである場合、65歳以上の公的年金等控除額(最低110万円)を差し引いて判定します。なお、遺族年金や障害年金は非課税所得のため、いくら受け取っていても判定上の所得には含まれません(0円扱い)。
| 親の収入の種類 | 税法上の扶養に入れる条件(令和8年分・2026年分) | 備考 |
|---|---|---|
| 合計所得金額の基準 | 年間 62万円以下 | 全ての所得の合計額で判定 |
| 公的年金収入のみの場合(65歳以上) | 年金収入(額面)が年間 172万円以下 | 172万円 - 公的年金等控除110万円 = 所得62万円 |
| 遺族年金・障害年金のみの場合 | 金額にかかわらず対象(所得0円扱い) | 非課税所得のため合計所得金額に算入されない |
| 仕送り要件(別居の場合) | 生計を一にしていること(継続的な生活費・療養費の送金等) | 年末調整や確定申告で送金記録(振込明細等)の保管が推奨される |
同居・別居別の老人扶養控除額と年間節税シミュレーション
70歳以上(75歳以上を含む)の親を扶養に入れると「老人扶養親族」に該当し、一般の扶養控除(所得税38万円・住民税33万円)よりも高い控除額が適用されます。
| 区分 | 所得税の控除額 | 住民税の控除額 | 年収600万円(所得税10%・住民税10%)の年間節税額目安 | 年収900万円(所得税20%・住民税10%)の年間節税額目安 |
|---|---|---|---|---|
| 同居老親等(親と同居) | 58万円 | 45万円 | 約10.3万円 / 年 | 約16.1万円 / 年 |
| 同居老親等以外(親と別居) | 48万円 | 38万円 | 約8.6万円 / 年 | 約13.4万円 / 年 |
※復興特別所得税(所得税額の2.1%)を含めると、実際の軽減額は上記よりさらに数千円多くなります。
別居している75歳以上の親であっても年間約8.6万〜13.4万円、同居していれば年間約10.3万〜16.1万円もの税金が毎年軽減されます。10年間継続すれば100万円〜160万円規模の手取り防衛効果になります。
誤解されやすい「デメリット」の正体:何が親の負担を増やすのか?
では、なぜネットや口コミで「75歳以上の親を扶養に入れると医療費や介護費が上がるから損をする」と言われるのでしょうか。その原因は、後期高齢者医療制度や介護保険制度における「世帯判定のルール」にあります。
1. 後期高齢者医療保険料の「均等割軽減(7割・5割・2割)」の判定基準
75歳以上が加入する後期高齢者医療制度の保険料は、全員が定額で負担する「均等割」と、本人の所得に応じて負担する「所得割」の合計で決まります(具体的な金額や軽減判定の基準額は都道府県ごとの後期高齢者医療広域連合および年度によって異なります)。
このうち「均等割」には、低所得世帯向けに7割軽減・5割軽減・2割軽減という軽減措置がありますが、その判定は「同一世帯内の被保険者全員と世帯主(75歳未満の子などを含む)の総所得金額等の合計」で行われます。
- 親と別居したまま子が税法上の扶養に入れた場合:親の住民票上の世帯主は親自身(または配偶者)のままであるため、子の所得は合算されず、親は引き続き7割軽減などの恩恵を受けられます。
- 親と同居して住民票を同一世帯(子が世帯主)にした場合:世帯主である子の現役給与所得が軽減判定に合算されるため、親の均等割軽減(7割・5割・2割)が外れ、親自身の後期高齢者医療保険料が年間3万〜5万円程度上がることがあります。
2. 高額療養費の自己負担限度額(住民税非課税世帯かどうか)
75歳以上の医療費窓口負担(1割・2割・3割)や、1ヶ月の医療費上限を決める「高額療養費制度」の区分も、「同じ住民票世帯に住民税課税者がいるか(世帯主が課税者か)」で大きく変わります。
特に、住民税非課税世帯(区分I・区分II)であれば外来・入院の自己負担限度額や入院時の食事代が低く抑えられますが、課税所得のある子と住民票上の同一世帯になると「一般区分(課税世帯)」となり、入院時などの月間自己負担上限額が上がります。
3. 介護保険料・高額介護サービス費・施設入所時の補足給付
65歳以上の介護保険料の所得段階や、介護サービス利用時の月間上限「高額介護サービス費」、さらに特別養護老人ホーム等に入所した際の食費・居住費の軽減制度「特定入所者介護サービス費(補足給付)」も、「本人の所得」に加えて「住民票上の同一世帯全員が住民税非課税かどうか(補足給付は別世帯の配偶者および預貯金等の資産要件も含む)」で判定されます。
| 制度項目 | 別居のまま「税法上の扶養」に入れた場合 | 同居して「住民票の同一世帯(子が世帯主)」にした場合 |
|---|---|---|
| 後期高齢者医療保険料(均等割軽減) | 影響なし(親世帯の所得のみで軽減判定) | 世帯主(子)の所得が合算され、7割・5割・2割軽減の対象外になる場合がある |
| 後期高齢者の高額療養費区分 | 影響なし(親世帯が非課税なら低所得区分を維持) | 課税世帯(一般区分等)の自己負担限度額になる |
| 介護保険料の所得段階 | 影響なし(親世帯の課税状況で判定) | 世帯課税となるため、非課税世帯向けの第1〜第3段階から第4段階等へ上がる |
| 高額介護サービス費・補足給付 | 影響なし(親世帯・配偶者の課税状況と資産で判定) | 高額介護サービス費の上限が上がり、補足給付(施設食費・居住費軽減)の対象外になる |
このように、医療費や介護費が上がる原因の大半は「住民票上の同一世帯(世帯合算)」にあります。親と同居している場合でも、生計を分けている実態に応じて住民票の世帯を分ける「世帯分離」を選択した場合に税金(老人扶養控除)や介護負担がどう変わるかについては、以下の記事で損益分岐点を詳しく試算しています。

75歳以上の親を「税法上の扶養」に入れる本当の注意点4つ
「それなら、別居(または世帯分離)で税法上の扶養に入れるならデメリットは一切ないのか?」というと、税法上の扶養そのものにも事前に確認しておくべき注意点が4つあります。
注意点1:自治体独自の高齢者福祉サービス・助成制度の対象外になるケース
国の制度である後期高齢者医療保険料や介護保険料の軽減判定は「住民票の世帯」を基準としますが、市区町村が独自に行っている高齢者福祉事業(例:紙おむつ支給・助成、配食サービス補助、高齢者交通パス・タクシー券助成、福祉手当など)の中には、利用要件として「住民税課税者に税法上の扶養として取られていないこと(課税者の扶養親族でないこと)」を定めている自治体が存在します。
この基準は自治体(市区町村)の条例や要綱によって完全に異なるため、親が居住している自治体の独自福祉サービスを利用している(または利用予定がある)場合は、事前に役所の高齢福祉課等の窓口や公式案内で「別居の子が税法上の扶養に入れた場合でも対象になるか」を必ず確認してください。
注意点2:兄弟姉妹で重複して同じ親を扶養に入れることはできない
1人の親を、複数の子ども(例:長男と次男)が同時にそれぞれの年末調整・確定申告で扶養親族として申告することは法律上できません。
もし兄弟間で相談せずに重複して申告してしまうと、後から税務署や自治体の照会で発覚し、どちらか一方の控除が否認されて所得税・住民税の追徴課税(不足税額+延滞税等)が発生します。親に仕送りをしている兄弟が複数いる場合は、事前に話し合って「誰の扶養に入れるか(基本的には所得税率が高い方に入れるのが世帯全体の節税効果は大きい)」を決めておくことが不可欠です。
注意点3:親に一時的な臨時所得(不動産売却・満期保険金・株の申告等)があった年の追徴リスク
普段は年金収入のみで所得要件(合計所得金額62万円以下)を満たしている親であっても、特定の年に以下のような臨時収入・所得が発生すると、その年の合計所得金額が62万円を超えて扶養から外れることがあります。
- 実家の土地や空き家を売却して譲渡所得が発生した
- 満期保険金や解約返戻金を受け取り、一時所得が発生した
- 特定口座の株式売却益や配当金について、還付を受けるために確定申告を行った
特に見落としやすいのが「親が良かれと思って特定口座の配当や医療費控除のために確定申告をした結果、合計所得金額が増えて扶養要件を超過してしまうケース」です。さらに、2026年成立の医療保険制度改革により、2028〜2030年度頃からは75歳以上の後期高齢者医療制度において、特定口座で申告不要を選んだ金融所得も医療保険料や窓口負担の判定に反映される見込みとなっています(税法上の扶養判定とは仕組みが異なりますが、親自身の保険料負担に影響します)。

注意点4:後期高齢者医療保険料を「口座振替」に変更すれば子の社会保険料控除になる
75歳以上の親の後期高齢者医療保険料(および介護保険料)は、年金額が年18万円以上の場合、原則として親の年金から天引き(特別徴収)されます。年金天引きされている保険料は、法律上「年金受給者本人(親)が支払ったもの」とみなされるため、子が自分の社会保険料控除として申告することはできません。
しかし、親の住所地の市区町村役場へ申し出て、後期高齢者医療保険料の納付方法を「年金天引き(特別徴収)」から「生計を一にする子の銀行口座からの口座振替(普通徴収)」へ変更すれば、子が実際に支払った親の後期高齢者医療保険料を、子の年末調整・確定申告で「社会保険料控除」として全額所得控除できるようになります(※年金天引きから口座振替への切替可否や手続き書類は自治体によって運用が異なるため、事前に市区町村の担当窓口へご確認ください)。
ケース別:親を扶養に入れるべきかどうかの判断フロー
ここまでの内容を踏まえ、ご自身の状況に合わせた判断基準を整理します。
- 親と別居しており、仕送りをしている場合:
親の住民票世帯には影響しないため、自治体独自の福祉助成の制限さえなければ、税法上の扶養(老人扶養控除:所得税48万円・住民税38万円)に入れるメリットが圧倒的に大きくなります。 - 親と同居しており、親の医療費・介護サービス利用が少ない(健康な)場合:
同一世帯として「同居老親等(所得税58万円・住民税45万円)」の控除を受ける節税額(年10万〜16万円超)の方が、後期高齢者医療保険料の均等割軽減が外れる負担増(年3万〜5万円程度)を上回るケースが多くなります。私も70代後半の母と同居しており、現在は母が元気で介護施設等への入所予定もないため、同一世帯のまま同居老親等として扶養に入れています。 - 親と同居しており、高額な医療費や介護サービス・施設入所が発生している場合:
医療・介護の自己負担限度額の上昇幅が大きくなるため、実態に応じて世帯分離や負担試算を行い、税金の軽減額と医療・介護費の差額を天秤にかけて判断するのが合理的です。
まとめ:75歳以降も「税法上の扶養」と「世帯判定」を正しく使い分けよう
75歳以上の親の扶養に関する要点をまとめます。
- 75歳になると「健康保険の扶養」からは全員外れて後期高齢者医療制度へ移るが、「税法上の扶養(老人扶養控除)」には年齢上限がなく引き続き適用できる
- 2026年(令和8年分)からは親の合計所得金額が62万円以下(公的年金のみなら額面172万円以下)であれば老人扶養控除の対象となり、子の税金が年間約8.6万〜16万円以上軽減される
- 親の後期高齢者医療保険料や介護負担が上がる主因は「住民票上の同一世帯(子が世帯主)」であり、別居のまま税法上の扶養に入れても国の医療・介護保険料は原則上がらない
- ただし、自治体独自の高齢者福祉サービス要件、兄弟間の重複申告禁止、親の臨時所得による所得超過には事前の確認と注意が必要
制度の仕組みを「健康保険」「税金」「住民票世帯」の3層に分解して理解すれば、漠然とした不安で年間10万円以上の控除を取り逃すことも、逆に想定外の負担増に驚くこともなくなります。ぜひ今年の年末調整や確定申告の前に、ご家族の状況に当てはめて確認してみてください。
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