
2026年5月、ある法改正が静かに成立しました。「健康保険法等の一部を改正する法律」と呼ばれるもので、28本の法律を束ねた一括改正法です。施行は2029〜2030年度を見込んでいます。
この改正が私にとって無視できないのは、扶養している母親の後期高齢者医療保険料の計算ルールが、根本から変わるからです。これまで「特定口座で申告不要を選べば、株の配当や分配金は保険料に影響しない」という仕組みでした。しかし2030年以降は、申告する・しないに関わらず、金融所得が自動的に保険料算定に加算される時代が来ます。
この記事では、その制度変更の本質を整理し、施行前の今から取れる対策を自分なりに考えます。
これまでの「申告不要」という選択肢が使えなくなる
現行制度では、上場株式の配当や投資信託・ETFの分配金を特定口座(源泉徴収あり)で受け取り、確定申告しないことを選べます。このとき、その収入は税務的には「なかったこと」として扱われます。
後期高齢者医療制度の保険料は、「前年の所得」をもとに計算されます。現行の仕組みでは、申告不要を選択した金融所得はこの「前年の所得」に含まれません。どれだけ多額の配当収入があっても、申告しなければ保険料の計算には影響しないというのが現在のルールです。
これが、2030年度以降は変わります。
金融機関が法定調書を後期高齢者医療広域連合にオンラインで提供する仕組みが整備され、申告不要を選択していても、上場株式の配当・譲渡益・ETF分配金が自動的に保険料算定の基礎に加算されるようになります。
既存記事「親が75歳になる前に!後期高齢者医療制度の仕組みと年間数万円の節税ノウハウ」では、支払い方法の工夫(口座振替による社会保険料控除)をメインテーマとして書きました。今回の改正は、そのような「節税の工夫」以前に、保険料算定のルール自体が変わるという話です。
改正の概要:対象となる所得と対象外の所得
今回の改正で後期高齢者医療保険料の算定に加算される所得と、加算されない所得を整理しておきます。
| 所得の種類 | 改正後の扱い |
|---|---|
| 上場株式の配当所得 | 加算対象(申告不要でも自動反映) |
| 上場株式・ETFの譲渡益 | 加算対象(同上) |
| ETFの分配金(VT/VYM等) | 加算対象(上場株式等の配当として扱い) |
| NISA口座からの収益 | 対象外(非課税のため) |
| iDeCo口座の運用益 | 対象外(受取時に公的年金等控除で処理) |
| 公的年金 | 現行通り(元から反映されていた) |
このうち「NISA口座からの収益は対象外」という点が、今後の対策を考えるうえで重要になります。
施行は2029〜2030年度見込み:今は動かなくていいが計画は必要
2026年5月に法律は成立しましたが、施行には国・自治体・金融機関の情報連携システムの構築が必要です。現時点の見通しでは、実際の運用開始は2029〜2030年度頃とされています。
今すぐ何か判断を迫られているわけではありません。ただ、私が気になるのは「2030年まではまだ時間がある」と思ってなにも考えずにいると、資産の配置転換が間に合わなくなる可能性があるという点です。
VT・VYMのような海外ETFは、特定口座で保有していると毎年分配金が出ます。この分配金が改正後は自動的に保険料算定に加算されます。一方で、NISA口座内のETF分配金は対象外です。
資産構成をNISA口座に寄せていく作業は、年間の投資枠(成長投資枠:240万円、つみたて枠:120万円)の制限があるため、数年単位の計画が必要です。2030年まで4年ほどしかないことを考えると、今から計画的に進めておく価値があります。
窓口負担割合が変わるリスク:1割から2割への移行ライン
後期高齢者医療制度では、保険料だけでなく病院の窓口負担割合にも所得が影響します。単身者の場合、おおよその基準は以下の通りです。
| 窓口負担 | 課税所得の目安 |
|---|---|
| 1割 | 課税所得28万円未満 |
| 2割 | 課税所得28万円以上かつ、年金収入+その他合計所得200万円以上 |
| 3割(現役並み) | 課税所得145万円以上 |
現行制度では、申告不要の金融所得はこの判定にも影響しません。改正後は、特定口座の分配金・譲渡益が所得として加算されるため、現在は1割負担だった方が2割負担に切り替わるケースが生じる可能性があります。
窓口負担割合は毎年の所得をもとに判定されるため、年によって変動します。株価が上昇して含み益の一部を売却した年は所得が増え、翌年の窓口負担が上がるという連動が起きやすくなります。
私の母親の場合、現在は基礎年金のみの収入で1割負担の範囲に収まっています。母親自身はETFなどの金融資産を持っておらず、改正の直接的な影響は今のところ軽微と考えています。ただ、相続や贈与で金融資産が移転するタイミングがあれば、その後の保険料・窓口負担をセットで考える必要があります。
NISA口座をまだ使い切っていない人への対策
この改正に対して有効な対策のひとつは、リスク資産の保有をできる限りNISA口座に集約していくことです。NISA口座の収益は今回の改正の対象外のため、親の保有資産をNISA口座に移していけば、その分は将来の保険料算定から切り離せます。
ただし、毎年の投資枠(成長投資枠:240万円、つみたて枠:120万円)の制限があるため、数年単位の計画が必要です。2030年まで4年ほどしかないことを考えると、NISAの余力がある場合は今から計画的に進めておく価値があります。
私の場合:特定口座の分配金は避けられない
私自身の状況は少し違います。毎年NISAの投資枠は使い切っており、それを超えた分は特定口座で運用している状態です。現在、特定口座にVT・VYM・iSTOPIXを合計で約7,800万円保有しており、そこから年間約108万円の分配金が出ています。
この分配金は、2030年以降は申告するかどうかに関わらず、後期高齢者医療保険料の算定に自動的に加算されます。私が将来75歳を迎えた時点でこの構成が続いていれば、その影響を受ける立場になります。
NISA口座へ「集約する」という選択肢は、私の場合は現実的ではありません。特定口座の資産をいったん売却してNISA口座で買い直そうとしても、年間の投資枠(最大360万円)の制約があり、7,000万円超の資産を入れ替えるには20年以上かかる計算です。また、売却時に課税が発生するという問題もあります。
正直に言えば、私にとってこの改正は「受け入れるしかない」という結論になります。特定口座で分配金を受け取っている以上、2030年以降は保険料への影響を避けることはできません。
まとめ:コストを把握した上で、投資を続ける
今回の法改正で変わる本質は「申告不要でも逃げられなくなる」という点です。
NISAにまだ余力がある場合は、2030年までの数年間を活用してNISA口座への資産集約を計画する価値があります。NISA口座の収益は改正後も対象外のため、入れられるだけ入れておくことが有効な対策になります。
一方で、私のようにNISA枠を使い切り、特定口座で運用している場合は、2030年以降の保険料増加は現実的に避けられません。この点は率直に受け入れています。
ただ、それは「投資をやめる理由」にはなりません。保険料への加算があったとしても、それは増加するコストのひとつに過ぎません。ETFの分配金から保険料の増加分が差し引かれたとしても、投資によって得られるリターンの価値はなくなりません。将来的に保険料が上がるコストを理解した上で、それでも投資を続けるという判断は合理的だと考えています。
制度の変化はコントロールできません。しかし、その変化の中身を正確に把握し、自分の状況に合わせた現実的な見通しを持って動き続けることが、長く投資を続けてきた経験から学んだことのひとつです。
※ この記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。施行時期・計算基準は今後の政令・省令等で変更される可能性があります。制度の詳細は厚生労働省や各都道府県の後期高齢者医療広域連合の公式情報を確認してください。
