
病気やケガで会社を休職し、健康保険から「傷病手当金」を受給している(またはこれから受給する)方の多くが直面するのが、「傷病手当金は非課税と聞いたのに、なぜ休職中に住民税や社会保険料の請求が来るのか?」「収入が減っているのに免除されないのか?」という切実なキャッシュフローの悩みです。
結論から言うと、傷病手当金そのものは非課税所得であり、所得税はかからず「翌年度の住民税」の算定所得にも含まれません。しかし、休職中に請求される「今年度の住民税」は休職前の(前年の)給与所得に対してすでに確定している税金であるため、原則として自動的に免除されることはありません。さらに、育児休業や産前産後休業とは異なり、病気やケガによる私傷病休職中には「社会保険料(健康保険・介護保険・厚生年金保険料・子ども子育て支援金)の法定免除制度」が存在しないため、休職中も毎月本人負担分を会社へ支払う義務があります。
この記事では、傷病手当金の受給中に住民税や社会保険料がどう請求されるのかという制度の仕組みから、実質手取り額のシミュレーション、払えない場合に自治体の窓口で相談できる「徴収猶予・分納・減免」の実務手順、そして突然の休職リスクに備える生活防衛資金の設計ルールまでを詳しく解説します。
【結論】傷病手当金の受給中にかかる税金・社会保険料の全体像
まずは、傷病手当金を受給しながら会社を休職している期間に、どの税金・社会保険料がかかり、どれが非課税になるのかを一覧表で整理します。
| 項目 | 傷病手当金受給中(私傷病休職中)の扱い | 理由・仕組み |
|---|---|---|
| 傷病手当金そのものへの所得税 | 非課税(0円) | 健康保険法第62条により租税その他の公課を課せないと規定 |
| 翌年度(来年6月〜)の住民税 | 傷病手当金分は非課税(算定対象外) | 非課税所得のため、休職期間が長引くほど翌年度の住民税は大幅に下がる |
| 今年度(休職中)の住民税 | 原則として免除されない(支払義務あり) | 前年(1月〜12月)の給与所得をもとに確定した税額を後払いしているため |
| 健康保険料・介護保険料 | 免除制度なし(本人負担分の支払義務あり) | 育休・産休と異なり、私傷病休職には法定免除制度がない |
| 厚生年金保険料 | 免除制度なし(本人負担分の支払義務あり) | 休職中も被保険者資格が継続するため、休職前の標準報酬月額で賦課される |
| 子ども・子育て支援金(2026年4月〜) | 免除制度なし(本人負担分の支払義務あり) | 健康保険料とあわせて標準報酬月額に基づき徴収される |
| 雇用保険料 | 0円(発生しない) | 会社から支払われる賃金(給与)総額に料率を掛けて計算するため、無給期間中は0円 |
このように、「傷病手当金が非課税であること」と「休職中に前年の住民税や毎月の社会保険料の支払いが続くこと」はまったく別のルールで動いています。ここを混同していると、休職に入った直後の資金繰りで大きなギャップに苦しむことになります。
なぜ傷病手当金は非課税なのに、休職中に住民税の請求が来るのか?
「傷病手当金は非課税なのに住民税を請求された」と驚く最大の理由は、住民税特有の「前年所得課税(後払い方式)」にあります。
1. 住民税は「前年の1月〜12月の所得」に対して今年6月から翌年5月に課税される
日本の住民税は、前年1月1日から12月31日までの1年間に稼いだ所得をもとに計算され、翌年の6月から再来年の5月までの12ヶ月間にわたって納付する仕組みになっています。
そのため、休職に入る前(前年)に通常通り働いて給与を受け取っていた場合、その前年分の住民税は休職中であっても納付しなければなりません。
2. 給与天引き(特別徴収)から納付書払い(普通徴収)への切り替えに注意
在職中に給与が支払われている間は、毎月の給与から住民税が12分の1ずつ自動的に天引き(特別徴収)されています。
しかし、休職に入って会社からの給与支給が0円になると、給与からの天引きができなくなります。この場合の対応は会社の規定や本人との相談によって以下のいずれかになります。
| 休職中の住民税の納付パターン | 仕組みとキャッシュフロー上の注意点 |
|---|---|
| パターンA:普通徴収(本人払い)への切り替え | 会社が自治体へ異動届を出し、自宅へ納付書が届く。年4回(6月・8月・10月・翌年1月)の納期ごとに数万円〜十数万円をまとめて納付する必要がある |
| パターンB:会社による立替・毎月振込(特別徴収継続) | 会社が引き続き自治体へ毎月納付し、本人が毎月(または復職後に)社会保険料とあわせて会社の指定口座へ振り込む |
特にパターンA(普通徴収への切り替え)になった場合、1ヶ月分ずつではなく「残り数ヶ月分が納期ごとにまとめて請求される」ため、自宅に届いた納付書の金額を見て驚くケースが多発します。休職に入る際は、人事・総務担当者に「住民税は普通徴収に切り替わるのか、毎月の社会保険料と一緒に会社へ振り込むのか」を必ず事前に確認しておきましょう。
社会保険料(健康保険・厚生年金等)も私傷病休職中は免除されない
住民税以上に毎月の家計へ重くのしかかるのが、社会保険料(健康保険料・40歳以上は介護保険料・厚生年金保険料・2026年4月導入の子ども子育て支援金)の本人負担分です。
産休・育休には免除制度があるが、病気やケガの休職には免除制度がない
現行の健康保険法および厚生年金保険法では、産前産後休業期間中や育児休業期間中については、事業主の申出により社会保険料(本人負担分・会社負担分とも)が免除される制度が設けられています。
しかし、うつ病・適応障害などのメンタルヘルス不調や、がん・手術・事故などの「私傷病による休職」については、法律上の社会保険料免除制度は一切設けられていません。
さらに、休職して会社からの給与が0円になっても、保険料の計算基準となる「標準報酬月額」は原則として休職前の給与水準のまま据え置かれます(無給になったことは月額変更届=随時改定の対象にならないため)。
【試算】標準報酬月額36万円(月給約36万円)の会社員が休職した場合の実質手取り
では、実際に傷病手当金を受け取りながら社会保険料と住民税を支払うと、手元にいくら残るのかを具体的に試算してみましょう(協会けんぽ東京支部・40歳未満・扶養なしの概算例)。
| 項目 | 休職前(通常勤務時) | 休職中(傷病手当金受給時) | 備考 |
|---|---|---|---|
| 支給額(額面) | 給与 360,000円 | 傷病手当金 約240,000円 | 標準報酬月額36万円 × 2/3(30日換算) |
| 健康保険料・支援金・厚生年金保険料(本人負担) | 約51,500円 | 約51,500円 | 休職中も同額を毎月会社へ振込(または立替精算) |
| 雇用保険料・源泉所得税 | 約9,500円 | 0円 | 無給・傷病手当金非課税のため0円 |
| 住民税(前年所得ベース・月額換算) | 約16,000円 | 約16,000円 | 前年所得に基づき普通徴収または会社振込で納付 |
| 実質手取り額(可処分キャッシュ) | 約283,000円 / 月 | 約172,500円 / 月 | 額面24万円から社会保険料+住民税で約6.75万円が流出 |
この試算から分かる通り、「傷病手当金で給与の約3分の2(24万円)がもらえるから、月24万円で生活できる」と考えてしまうのは非常に危険です。
実際には、受け取った24万円の中から毎月約5.15万円の社会保険料と約1.6万円の住民税(合計約6.75万円)を支払う必要があるため、自由に使える実質手取りは「月約17.2万円(休職前の額面給与の5割弱)」まで減少します。さらに、傷病手当金の初回振込は申請から1〜2ヶ月後になることが一般的であるため、休職直後の1〜2ヶ月間は「収入ゼロのまま社会保険料と住民税の支払いだけが発生する」という資金繰りの谷間が生じます。
なお、2026年4月から医療保険料に上乗せして徴収が始まった「子ども・子育て支援金」の具体的な負担額については、以下の記事で年収別に試算しています。
住民税がどうしても払えないときに使える2つの公的救済措置
休職が長引いたり初回支給が遅れたりして、手元資金から住民税を一括・期日通りに納付するのが困難な場合は、絶対に放置(滞納)せず、納期限前に居住している市区町村役場の「納税課(徴収担当窓口)」または「住民税課(課税担当窓口)」へ相談してください。
自治体の窓口で相談できる公的な救済措置には、大きく分けて「徴収猶予(分割納付)」と「住民税の減免」の2つがあります。
| 制度名 | 相談窓口 | 概要と適用ハードル |
|---|---|---|
| ① 徴収猶予・換価の猶予(分納相談) | 市区町村の納税課・収納課等 | 病気や休職等で一時的に納付が困難な場合、原則1年以内の期間で納付を猶予・毎月少額ずつの分割納付に組み直してもらえる制度。延滞金の軽減・免除あり。比較的柔軟に相談に応じてもらえる |
| ② 住民税の減免制度 | 市区町村の住民税課・市民税課等 | 税額そのものを減額・免除する制度。ただし「前年所得が一定以下」「今年の所得見込みが前年の半分以下に激減」「預貯金等の資産が乏しい(生活保護基準に近い困窮状態)」など、自治体ごとの条例要件が極めて厳しい |
※住民税の減免要件(対象となる前年所得の上限、減少率、申請期限など)は、地方税法に基づき各自治体(市区町村)が条例で独自に定めているため、全国一律ではありません。必ずお住まいの自治体の公式ウェブサイトまたは窓口で要件を確認してください。多くの自治体では「納期限の7日前まで(または納期限まで)」を申請期限としており、すでに納付済みの税金や納期限を過ぎた税金は減免対象外となるため、納付書が届いたらすぐに動くことが鉄則です。
実務上、会社員として前年に一定の年収があった方や、一定の預貯金がある方の場合は、②の「減免(税額カット)」の厳しい要件には該当しないケースが多くなります。しかし、①の「徴収猶予(分割納付への変更)」であれば、傷病手当金の受給決定通知書や休職証明書、収支状況を提示して誠実に相談することで、1回あたり数万円〜十数万円の普通徴収を毎月の傷病手当金支給に合わせた無理のない分割払いに調整してもらえる可能性が高くなります。
休職2年目(翌年度6月〜)からは住民税が大幅に下がる
もう1つ知っておきたい希望のある事実として、休職期間が年をまたぎ、翌年度(翌年6月)を迎えると、住民税の負担は劇的に軽くなります。
冒頭で解説した通り、傷病手当金は非課税所得であり、税法上の合計所得金額には一切算入されません。したがって、例えばある年の1月から12月までの1年間を通して休職し、給与収入が0円で収入が傷病手当金のみだった場合、その年の課税所得は「0円」となります。
その結果、翌年6月からの住民税は「非課税(0円)」となり、さらに住民税非課税世帯となれば高額療養費の自己負担限度額も大幅に下がります。また、年の途中(例えば7月)から休職に入った場合でも、1月〜6月までの半年分の給与に対してのみ翌年度の住民税が計算されるため、今年の年末調整や確定申告を行えば、すでに源泉徴収されていた所得税が還付され、翌年6月からの住民税も大きく下がります。
ITエンジニアの視点:傷病手当金のタイムラグと社会保険料に備える「生活防衛資金」の設計
私はITエンジニアとして20年以上働く中で、プロジェクトの激務や体調不良によって同僚や後輩が休職に入る場面を何度も目にしてきました。
その経験から痛感しているのは、「健康保険の傷病手当金(最長通算1年6ヶ月・給与の約3分の2)は非常に優れたセーフティネットだが、それだけで休職初月からのキャッシュアウトをすべてカバーできるわけではない」という現実です。
特に休職初期の1〜3ヶ月間は、以下の3つのキャッシュアウトが同時に重なります。
- 傷病手当金の初回申請から振込までの1〜2ヶ月間の無収入期間(医師の証明・会社の証明・健保審査のタイムラグ)
- 休職中も毎月確実に発生する約4万〜7万円の社会保険料(健康保険・厚生年金等)の振込
- 前年所得に基づいて届く住民税(普通徴収の納付書)と、通院・治療にかかる医療費の支払い
だからこそ私は、投資に回すリスク資産とは完全に切り離して、「生活費2年分(月25万円×24ヶ月=600万円)+家電買い替え予備費50万円=計650万円」の生活防衛資金を、いつでも引き出せる高金利の普通預金(SBI新生銀行のSBIハイパー預金・年0.55%)と個人向け国債(変動10年)で確保しています。
手元に最低でも生活費6ヶ月〜1年分以上の現金クッションがあれば、万が一休職することになっても、住民税の納付書や社会保険料の請求に怯えることなく、また暴落時にNISAや特定口座の資産を取り崩すことなく、心身の回復だけに専念することができます。
生活防衛資金の具体的な金額設定ルールや保管場所の考え方については、以下の記事で詳しく解説しています。


まとめ:休職中のキャッシュフローを事前に把握し、早めの手続きと相談を
傷病手当金の受給中における住民税・社会保険料のポイントをまとめます。
- 傷病手当金は非課税所得であり、所得税はかからず「翌年度の住民税」の算定所得にも含まれない
- ただし「今年度の住民税」は前年の給与所得に対する後払いであるため、休職中も原則として免除されず普通徴収(納付書)等で支払う必要がある
- 私傷病休職には育休のような社会保険料の法定免除制度がないため、健康保険料・厚生年金保険料・子ども子育て支援金の本人負担分(月数万円)を毎月支払う義務がある
- 傷病手当金(給与の約2/3)から社会保険料と住民税を差し引くと、実質的な手取りは休職前給与の5割弱になる点に注意する
- 一括納付が難しい場合は、納期限前に必ず市区町村の納税窓口へ相談し、「徴収猶予(分割納付)」や自治体ごとの「減免要件」を確認する
休職中は体調の回復が最優先です。お金の手続きで余計なストレスを抱え込まないよう、会社の人事窓口での納付方法の確認と、必要に応じた自治体窓口への早めの相談を進めてみてください。
次に読むおすすめ記事
突然の休職や減収にも揺らがない「生活防衛資金」の金額目安とマイルールを知りたい方はこちら:

2026年4月から健康保険料に上乗せされている「子ども・子育て支援金」の年収別負担額はこちら:
2026年(令和8年分)年末調整の控除額見直し・178万円の壁と手取りへの影響はこちら:

生活防衛資金の預け先として有利なSBI新生銀行(年0.55%)への乗り換え手順はこちら:


