
新NISAが定着し、投資信託の「オルカン(全世界株式)」1本に集中投資するスタイルが資産形成の主流になっています。
世界中の企業に低コストで分散投資できるため、資産形成の初期においてこれほど合理的な選択肢はありません。しかし、相場が順調な時期が長く続くと、「もし過去のような大暴落が起きたら、本当に株式100%のままで耐えられるだろうか」「債券を少し混ぜた方がいいのだろうか」という不安や疑問を持つ方も増えています。
一般的に「債券を混ぜるとリスクは下がるがリターンも落ちる」と言われます。しかし、具体的にどのくらいリターンが犠牲になり、暴落時にどの程度資産を守ってくれるのかを正確な数字で把握している人は多くありません。
そこで今回は、感覚論や一般論ではなく、自作のポートフォリオシミュレーター(モンテカルロ法による5,000回試行)を使って、「オルカン1本(株式100%)」と「株式80%+債券20%」の耐久性を徹底的に比較検証しました。
比較する2つのポートフォリオの前提条件
今回のシミュレーションでは、個人投資家が直面しやすい現実的な前提として、以下の2つのポートフォリオを設定しました。
パターンA:全世界株式100%(オルカン集中型)
- VT系全世界株式:100%
パターンB:株式80%+債券20%(王道バランス型)
- VT系全世界株式:80%
- 米国総合債券(AGG等):20%
検証の共通パラメータは以下の通り設定しています。
- 初期資産:1,000万円
- 毎月の追加積立:5万円
- シミュレーション期間:30年間(元本合計は2,800万円)
- 試行回数:5,000回(モンテカルロ法)
- アセットの前提値:
- 全世界株式:期待リターン年5.5%、リスク(標準偏差)年18.0%
- 米国総合債券:期待リターン年3.5%、リスク(標準偏差)年9.0%
- 株式と債券の相関係数:0.2(相関が低く、分散効果が働く水準)
これらの前提値に基づき、まずはポートフォリオ全体のリスクと期待リターンがどう変わるかを確認します。
期待リターンとリスクの比較:数字で見える明確な差
ポートフォリオ理論に基づき、2つの配分の期待リターンとリスク(年率)を計算すると、非常に興味深い差が現れます。
期待リターンとリスクの計算結果:
- パターンA(全世界株式100%): 期待リターン 5.50% / リスク 18.00%
- パターンB(株式80%+債券20%): 期待リターン 5.10% / リスク 14.86%
この結果から分かる重要なポイントは以下の2点です。
1. リターンの低下はわずか0.4%ポイントにとどまる
債券を20%組み入れても、期待リターンは年5.50%から5.10%へと、わずか0.40%ポイントしか下がりません。「債券を入れるとリターンが大幅に削られる」というイメージを持つ方が多いですが、20%程度の配合であればリターンの大半を維持できます。
2. リスクは3.14%ポイント(約17%)も大幅に削減される
一方で、ポートフォリオ全体のリスク(値動きの荒さを示す標準偏差)は18.00%から14.86%へと一気に3.14%ポイント低下します。これはリスクが約17.4%も軽減されたことを意味します。
なぜリターンの低下以上にリスクが下がるのかというと、株式と債券の「相関係数」が0.2と低いためです。異なる値動きをする資産を組み合わせることで、リターンの足を大きく引っ張ることなくリスクだけを効率的に打ち消す「分散投資のボーナス効果(フリーランチ)」がしっかり機能していることが数字から分かります。
モンテカルロ法で検証!30年後の資産推移と暴落シナリオ
平均利回りだけで計算する直線的な積立計算機では、相場の暴落や好不調のブレ幅を見ることができません。 そこで、乱数を用いて5,000通りの未来相場を走らせる「モンテカルロシミュレーション」によって、30年後の資産額の散らばりを検証しました。
元本2,800万円(初期1,000万円+月5万円×30年)に対する30年後の資産額予測は以下の通りです。
30年後の試算結果一覧:
全世界株式100%(オルカン集中型)
- 悲観シナリオ(下位10%):約2,598万円(元本割れのリスクあり)
- 中央値(50%ライン):約6,815万円
- 楽観シナリオ(上位10%):約1億8,730万円
株式80%+債券20%(王道バランス型)
- 悲観シナリオ(下位10%):約3,178万円(元本2,800万円をしっかり維持)
- 中央値(50%ライン):約6,991万円
- 楽観シナリオ(上位10%):約1億6,417万円
このシミュレーション結果から、運用の成否を分ける決定的な事実が見えてきます。
暴落シナリオ(下位10%)での底堅さがまるで違う
最も注目すべきは、運悪く相場低迷や大暴落に見舞われ続けた場合の「悲観シナリオ(下位10%)」の差です。
全世界株式100%の場合、30年間にわたって愚直に積立を続けても、下位10%の不運な相場では資産が約2,598万円となり、投資元本の2,800万円を割り込んでしまうシナリオが存在します。長期投資であっても、株式100%である限り「30年運用しても元本割れする確率」がゼロではないということです。
一方、株式80%+債券20%の場合、同じ下位10%の悲観シナリオでも約3,178万円に着地し、投資元本をしっかりと上回ります。オルカン1本と比較して、最悪期でも手元に残る資産が約580万円も多く底上げされます。
中央値ではほぼ互角(むしろ債券配合がわずかに高い)
驚くべきことに、試行結果の真ん中である「中央値(50%ライン)」を比較すると、オルカン1本が約6,815万円、株式80%債券20%が約6,991万円と、債券を混ぜたポートフォリオの方がわずかに高い数値を示しています。
これは、株式特有の激しい下落幅を債券が抑えることで、「複利の目減り(ボラティリティ・ドラッグ)」が軽減されるためです。大きな下落を避けることは、長期的な資産成長の効率を高める上で極めて重要です。
楽観シナリオでは株式100%が大きく上振れる
歴史的な大相場や世界的な好況が続いた「楽観シナリオ(上位10%)」では、全世界株式100%が約1億8,730万円まで伸び、株式80%債券20%の約1億6,417万円を上回ります。相場の上昇の波を余すところなく享受できるのが株式100%の最大の強みです。
自分の資産条件で試算できる「自作シミュレーター」はこちら
今回の比較検証で使用したツールは、私自身が総資産1億円に至る資産配分を検討するために自作したWebアプリケーションです。
ブログ内でどなたでも完全無料でご利用いただけます。

画面上で以下の項目を自由に入力してシミュレーションできます。
ご自身の保有資産や月々の投資額に合わせて、ぜひ悲観シナリオやリスク・リターンの位置を確認してみてください。
20年投資家・ITエンジニアの結論:どちらを選ぶべきか?
2004年から投資を始め、リーマンショックの資産半減やコロナショックの暴落を乗り越えて総資産1億円に到達した私自身の経験を踏まえると、どちらを選ぶべきかは「現在の年齢・資産規模・精神的耐久力」によって明確に分かれます。
資産形成期(20代〜30代・資産数百万円レベル)
まだ総資産が少なく、本業からの給与収入(入金力)が十分にある時期は、「オルカン1本(全世界株式100%)」で突っ走るのが極めて合理的です。 この時期は暴落が起きても「安く大量に買えるボーナスステージ」と捉えることができ、給与からの積立によって損失をカバーできます。楽観シナリオの上振れを最大限に狙うべきステージと言えます。
資産拡大後・リタイア視野(40代以降・資産数千万円〜1億円規模)
資産規模が3,000万円、5,000万円、1億円と大きくなってくると、相場が30%下落したときの損失額は数百万円から数千万円規模に達します。 この段階になると、毎月の給与収入だけでは暴落の損失を埋め合わせることが難しくなります。さらに、早期退職(FIRE)や老後が視野に入り、資産の取り崩しが近づくほど、下落相場での精神的ダメージは計り知れません。
そのため、資産が大きくなった段階や40代以降においては、ポートフォリオの20%程度を債券や現金などの安全資産に振り分け、下位10%の悲観シナリオにおける底堅さを確保しておくことの価値が極めて大きくなります。
投資において最も避けるべき失敗は、暴落時の恐怖に耐えきれずに途中で売却し、相場から退場してしまうことです。 事前にシミュレーターを使って「最悪の場合どこまで下がるか(悲観シナリオ)」を数字で把握しておくことが、長期投資を最後まで完走するための最大の防衛策になります。
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